「ラブレスのナイフに近づこうとすればするほど、到達点への距離感が重くのしかかってきた。見れば見るほど、使えば使うほど、その完成度の高さに圧倒され、もはやラブレスしかないと断ずるほど頭の中はラブレス一色になった。だが、あれやこれやとさまざまな方法を試みたりしながら、緊張と焦燥がふっととぎれた瞬間に私は気づいた。ラブレスに近づこうと躍起になる一方で、微妙なズレが生じていたことに。模倣は創造の源泉である。しかしラブレスの経験の産物であるシステムとデザインをベースにしても、ナイフを作るのは私であり、ラブレスではない。バックグラウンドも感性もことなるのだから、同一のナイフができるわけないし、できたとしても意味がない。ラブレスが彼のフィールドで最高のナイフを作るなら、私は私自身のフィールドで最高のものを作ろう。日本の感性とフィールドワークに適した最高のベーシックモデルを作ることこそが、ラブレスを真に模倣したといえるのではないかと今私は考えている」。
(相田義人)
「カスタムナイフメーキング」(主婦と生活社刊)解説・相田義人から抜粋


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